楽しく生きたい

30代都内くたびれたリーマンが日々思うことをつらつら書いていきます

昔、牛の飼育をやっていた。ホルスタインなどの乳牛ではなく牛肉になる肉牛の方だ。その話です。

牛は朝と夕方の二回餌やりをする。

それぞれの家で食べさせるものは違う。

うちのメニューはこうだ。

大麦を潰したもの。圧ぺん。

小麦粉を精製するときに出る薄皮のふすま。

近くの工場で作られる配合飼料。

豆腐のおから。

そして、藁だ。

うちは牛舎が三棟あって、全部終わるのに二時間くらいかかった。

目覚ましテレビとか特ダネとかずっと見てて面倒臭くなって朝九時頃からやり始めたり、早めに目が覚めてしまったので、朝五時からやり始めたりとけっこういい加減だった。

父が亡くなって、牛の飼育を引き継ぐことになったのだが、私は次男で高校は普通科、しかも中退なので牛の知識など全くない。

農業を学んでちゃんと高校を卒業した兄はなぜか跡を継がず会社員になって家を出てしまった後なので、(しかも子供がいて、奥さんとは仲が悪くなり始めていた時期なので)それどころじゃなかった。

牛の世話で面倒臭いことの一つに牛舎の掃除がある。

牛の寝床に敷くものは藁、おがくず(うちは木のかすだから、きっかすと呼んでいた)、牧草、古い畳等がある。

噂でしかないが、乳牛の場合はコンクリートの寝床に何も敷かないとか聞いたことがある。

うちは二十頭ほどの牛を広い牛舎でまとめて飼う多頭飼育という方式だった。

雨の日でも外の広場に出さずに中で牛が走り回って運動できるから便利だ。

で、うちはコンクリートの寝床にまんべんなくきっかすを敷いていた。

そこに牛たちがじょろじょろぼたぼたと大量の糞尿を撒き散らす。

きっかすに混ざって白っぽいオレンジ色が段々茶色になり黒に変わり、泥んこのようになっていく。

吸収力がなくなってくると本当に泥沼化してくる。

牛が走り回ってスッ転ぶと危ない。

足を骨折したらもう終わり。

馬と同じで治療とかしない。

屠殺だ。

まだいい肉質になっていないのに得らなくちゃならない。

いい肉じゃないから安く買い叩かれる。

それが嫌なら泥沼化したらすぐに掃除をするしかない。

ホイールローダーというバケットが前方についた重機でガンガンすくっていく。

父が生きていた頃は、この手伝いをよくさせられた。

牛たちを全部広場に出すなり、空いている牛舎に移動させるなりしてから一人でやればいいものを後で牛を牛舎に戻すのが面倒だからと手伝わされた。

泥沼化したきっかすを全部外に出すのは父一人でやっていた。

しかし、新しいきっかすを入れるときに手伝わされた。

要するに長靴をはいて長い竹の棒を持って私が牛舎の中に入る。

重機がきれいな木の匂いの漂うきっかすをバケット山盛りにして持ってくる。

この時、鉄柵のそばにいる牛を棒で追い払う。

そして、素早く柵を開ける。

重機が入ったらすぐに閉める。

重機が奥の方からきっかすを入れていく。

出る時にまた牛を追い払って柵を開ける。

重機が外に出たらすぐに柵を閉めるという流れだ。

まあー面倒臭い。

これを広い牛舎がきっかすいっぱいになるまで繰り返す。

基本的に牛の脇腹を棒で突っつくだけだから大したこと無さそうだと思うかもしれないが、やると大変。

きれいなきっかすに牛が大興奮して大暴れだ。

きっかすに頭から突っ込んでいく。

粉が舞い散る。

ぐおおおおおみたいな聞いたことのないような雄叫びを上げて走り回る。

それが二十頭もいる。

コンクリートでスッ転ぶ阿呆な奴もいる。

その上に乗っかる阿呆もいる。

笑ってると見境なくこっちに突っ込んで来る奴もいる。

ジャンプして柵の高い所によじ登った途端、反動で跳ね返った柵がちょっと開いちゃう。

外に飛び出そうとした牛の頭を柵で思い切り挟む(危うく逃げられるとこだった)。

終わるまでの一時間くらいの間、恐怖と面倒臭いのがない交ぜになった気持ちだった。

牛の睾丸を取る。

そんなこともやったけど、これはほとんど見てるだけだった。

要するに去勢だ。

取らないと肉質が固くなるとかそんな理由だった。

父が輪っかにしたロープを牛の角目掛けて投げて捕まえる。

幼稚園の遊具みたいな枠組み付きの台がある。

牛一頭が入れて、両側は鉄の枠があって、前にも横にも逃げられない鉄の枠。

この怪しげな枠に牛が入りたがらない。

で、そのでかい尻を軽く叩いたり、押したりするのだ。

これもかなりしんどかった。

押してると、ハエを追い払うために牛が尻尾を振り回す。

それが目に当たる。

大したこと無さそうだと思うかもしれないが、鞭で顔面をひっぱたかれたみたいにかなり痛い。

叩いても押してもびくともしない。

こんなんで時間がどんどん経っていく。

そのうち、ぼとぼとと糞尿を垂れ流したりする。

何とか牛を枠に入れるのに成功すると、獣医の先生の出番だ。

獣医が赤チンで玉袋を拭いて、根元に輪ゴムをぱちんとはめて、カミソリで玉袋をしゅっと素早く切る。

ぼとりとでかい玉が牛の足元に用意したバケツの中に落ちる。

ピンク色のラグビーボールより二周りほど小さい感じだ。

五十円くらいで売ってるアーモンドカステラと同じくらいだ。

それが二個、たまに一個の奴もいる。

しかし、その表面に寄生虫なのか模様なのか分からないが十字型のうっすら芋虫状に盛り上がった気味の悪いものが無数にへばりついていて、本当に気持ち悪かった。

母が見に来て、牛の玉は食えるのかと聞いて獣医が笑ってた。

食えないことはないと思うけど俺は食いたくないなあと言ってた。

ちなみに切った玉袋はそのまま。

そのうち、かさぶたになって輪ゴムもその時自然に落っこちるから、そのままでいいそうだ。